三嶺の崩壊について
1)崩壊
の概要
土石流は関係者からの聞き取りの結果、平成16年8月31日の台風16号と平成16年9月7日
の台風18号の集中豪雨に起因するものと推定されます。
当時の雨量情報として、高知県物部村字久保の観測所を参考として考察する。
平成16年8月は、月の累計雨量として、1,447mmを記録して
おり年間降水量の約1/2です。
四国南部は、年間降水量は魚梁瀬で4000mmとの記録もあるが、ほぼ3000mm程度です。
顕著な降水量は、8/1から8/2にかけて、364mmを記録しており、最大時間雨量は30mm
となっています。 更に、8/17から8/19にかけて総雨量491mmを記録しています。
8/30から8/31にかけては、総雨量349mmを記録し、8/30には最大時間雨量は47mmを
記録しています。
結論としては、8月の度重なる降雨により稜線部の緑色片岩の流れ盤構造が経年的な
風化、粘土化、岩体のブロックとしての結合力が弱まり一機に大規模な崩壊を起こした。
土質力学的に解釈すれば、滑動に抵抗するモ- メントMr/滑動しようとするモ-メントMfとの
比Fs<1の状態となり崩壊あるいは短期間でスライド(slide)した。 斜面先崩壊とされる。
高松市の方から、指摘がありましたが稀に見る降水量の影響で岩体、土壌部の地下浸透水
が増加して間ゲキ水圧が増加し、上記の抵抗モ-メントが減少したとも考えられる。
表1 三嶺における地形要素
河床
地域区分 |
標高差 m
|
水平距離 m |
河床勾配
|
Tブロック |
1754-1420=334 |
500 |
1/1.5
|
Uブロック |
1420-1280=140 |
500 |
1/3.6
|
Vブロック |
1280-1230=50 |
400 |
1/8
|
2)崩壊地の地質
ある地質専門家より、ご教示いただいた資料によれば三嶺-西熊山の南方1.5km-2.0kmに御荷鉾構造線が
ほぼ平行に走っている。
この構造線の北側に、泥質片岩、珪質片岩、緑色片岩と平行に分布しているとされています。
崩壊したブロックは、塩基性玄武岩等起源の緑色片岩を主体とする流れ盤構造で標高1754mの西方の稜線直下
です。珪質片岩、泥質片岩は傾斜面に対して、ほぼ90°の走行をしており受け盤構造で今回は崩壊をしていない。
3)水理学的な推定
Uブロックにおける土石流の推定流下速度を計算してみると次のようになる。
水理学で一般的に使用される、Bayern公式を参考とする。
0.6
ω1=20(h/L) (m/s) ................................(1)
h=334+140=474m L=1000m
これを(1)に代入すると ω1=12.8m/s
ここで、到達速度をt1とすれば
t1=L/ω1 (s)..................................................(2)
これにL=1000m ω1=12.8m/sを代入すれば
洪水の流れの標高1280m地点までの到達時間はt1=78s=1.3分となる。
ここで留意しなければならないのは、単なる洪水流と土石流は流下速度が本質的に異なることです。
すなわち、水理学者のF.Wangによれば運動量保存法則より、次式を提案しています。
土石流の流下速度をv1、単なる洪水流の流下速度をvとすれば
v1=0.4v (m/s)...........................................(3)
これに、v=12.8m/sを代入すれば、土石流v1=5.1m/s と推定されます。
到達時間は同様に計算すると、196sあるいは3.3分程度となります。
Uブロックにおける推定最大流量。
ここの流域に影響を与える流域を、A=0.8km*1.5km と推定して A=1.2km2とす
る。
流出流量はQpは、物部公式によれば次式となる。『 8月30日の最大流出流量の算定。』
この日の日雨量は久保においては、343mmであり、 大栃の想定日雨量は331.5mmである。
Qp=1/3.6 f r A.........................................(4)
ここで、fは流域特有の流出係数で土木学会水理公式集により、0.9程度を採用する。
rは雨量強度で(mm/h)
2/3
r=r0(24/t1)..................................................(5)
で計算すべきであるが、流路長が短く適用が出来ないので、高知県土木部作成の
大栃の確率規模 1/10で降雨強度81.8mm/hの値を採用する。
Qp=1/3.6*0.9*81.8*1.2
=24.5m3/s 程度の流出流量と推定される。
4)崩壊土量の概算
今回の現地踏査にて、判明した崩壊部分は所謂シカザレと命名した沢の上流部の稜線
直下の部分で幅100m、斜面の垂直に30m、延長200mと推定した。
(沢の命名根拠
は青ザレとの対比で、鹿が相当生息しており、これに因み命名しました。)
崩壊土量V=100*30*200
=600,000m3
その他の要素として、従来の小崩壊した渓流部の崖錐堆積物も相当量流下しており
渓流部に現在存在する、堆積物は100万m3を超えるのではと思われる。
5)崩壊の現地写真
三嶺崩壊の全景
左 今回の崩壊地 シカザレ崩壊地と命名
右
青ザレ 南国市 久川卓男氏撮影
標高1250m付近河床の状況
この付近は土砂の堆積区域で洗掘力は減少して
流木が天然の砂防ダムを形成している。(Vブロックとして分類)
天然の砂防ダムが3ヶ所ここより下流で見られる。
標高1250mの河道直線部でVブロックとして分類。
河床勾配が1/8と若干緩くなり、
崩壊土砂の堆積区域。
標高1300m付近で左に見えるの
は桂の大木で下流部に、木製の橋が架かり、渓流の沢水で
喉を潤し、休憩の場所で
あったと記憶している。
右からは、カヤハゲの沢
が合流している。
(Uブロックと
して分類) 河床勾配は1/3.6
標
高1330m付近の巨石と倒れたモミの巨木 (Uブロックとしてに
分類)
標
高1350m付近の土石流で、巨石、木片を多量に含み崩壊当時
のエネルギ-の
大
きさを感じずにはいられない。(Uブロックとして分類)
土石流の構成岩は、珪質片岩、緑色片岩、石灰岩、泥質片岩、砂岩起源の片岩よりなる。
標
高1400m付近の所謂シカザレ上流部の崩壊状況。
渓流部の岩
質は、風化した泥質片岩で薄くはがれ左前方は、山腹崩壊を発生している。
上部からの
土石流で削られ基部の岩体が露出状態になっている。
(Tブロックとして分類) 河床勾配は1/1.5
標
高1400付近の青ザレへの直登ル-トの合流部で、右前方が本来の登山道につながる。
この区間までが今回の土石流により、登山道が寸断されたこととなり、被害は大である。
本来の渓流には、小崩壊した崖錐堆積物が存在して降雨を含み、森林の土壌のフィルタ-
(土壌細菌、理化学的な作用)と連動して豊かな植物をはぐくみ、動物を生息させる。
当然この豊かな、空隙は降雨を中間流出、基底流出形式として育んで水資源涵養の役割を果たす。
所
謂、シカザレの標高1500mから1600mにおける土石流の流下した痕跡で、地形がV字地形となり
崖錐堆積物、側面の風化土壌、樹木もすべて削られている。
基盤の岩質は、泥質片岩でこの区間は今後崩壊の可能性は低い。
地質構造は褶曲作用は受けているが受け盤構造となっており、この面からもブロックとしての安定性は高い。
標
高1700mから稜線付近に存在する塩基性玄武岩等が変性した緑色片岩で地形の勾配に対して
流れ盤構造となっており、造山運動等により破砕、褶曲作用、粘土化、風化作用を受けており
不安定ブロックである。(Tブロックとして分類) 部分的に珪質片岩も岩層に存在する。
この緑色片岩中には、レンズ状に石灰岩が介在している。
崩
壊部の周辺部には、更に地割れ現象、不安定岩体、オ-バ-ハング状態のブロックもあり
今
後この区間は登山の安全、三嶺の景観保全面からも注意する必要がある。
6)
崩壊地の対応
三嶺の登山愛好家は、この崩壊現象を悠久なる自然の変化として認識しているようです。
しかし、河原状態になった登山道の復旧はどうなるのか。
現在、この青ザレル-トは、結構利用者が多く、このまま登山道を放置しておけば落石、降雨時の危険、
シカザレからの落石、等のケ-スが想定される。
今
後、崩壊地の対策、登山の安全面から皆様の意見をお聞きしたい。