四国誕生の謎

 人間が生活していくうえにおいて、森林、田園、都市環境、気象、地質、地形等の諸条件のある
自然環境の影響を受けている。

 私自身は山間僻地で生まれ、自然を友として野山に遊ぶ自然児として少年時代を過ごしました。
その遊びの中で、植物が地域により異なる分布がある、地質構造の相違、岩石の色の変化、鳥類
の分布、四季の変化等の自然現象の変化を不思議に思いました。

 その中でも、特に地質構造、岩石の成因、岩石の分布について探究心がありました。
現在の地質学の分類でいけば、秩父帯、三波川帯の境界付近をうろうろして日常生活をしていた
ことになります。
 秩父帯は石炭期前後の堆積岩と考えられていますが、石灰岩、砂岩、泥岩、凝灰岩、チャ−ト
等より成り立っています。 但し、現在のプレ−トテクトニクス理論からは同一時代の堆積では
ないと考えられるようです。 石炭期からぺルム期は3.6億年前から2.5億年前位とされる。

 三波川帯は、変成度の低い黒色片岩を主体とする南部と、粘板岩、玄武岩、珪質岩質が変成した
と思われる黒雲母片岩、千枚岩、緑色片岩、紅廉石片岩、珪質片岩等の変成度が高い北部の地層
から成り立っています。かって銅の鉱山として有名であつた別子銅山は北部の変成度の高い北部の
地層に属し、含銅硫化鉄鉱として銅、鉄、硫黄の化合物として採掘されました。
 三波川帯については、化石が産出していないので地質年代は現在のところ不明のようです。
この当時不思議に思ったのは、このような地質が何ゆえに形成されたのか。

 中学を卒業して、高知市内の高校に入学して漠然として地質関係の仕事に就きたくなり地学に
興味を持ちました。 しかし考えてみると、地学は高級な学問分野で、数学、物理学、化学、生物
の総合的な応用科学と分かりました。
 単なる分類学的な知識では、理解できない学問分野であり私にとり無理と分かり方向転換して
農学部に入学して農業土木を勉強して今日に到っています。
 教養課程の時の、応用地質、地質学は興味があり講義を受けましたが、当時の考えはプレ−トの
運動により陸地が作られるとはされていなかった。
 地向斜に陸地から土砂が溜まり、造山運動により日本列島の基礎はつくられた。
そのような考えであり、地球物理学的な知識の応用、日本海溝の深さの謎究明、海底知識の掘削実施
により、現在は陸地の大部分は付加体により構成されている事実が判明しつつあります。
 そのようなことを執筆しているのが、現在東京大学海洋研究所教授をされている、平朝彦氏の
『日本列島誕生の謎』という本で、岩波新書より出版されています。
 平氏は、昭和52年から高知大学にて、四万十帯といわれる1.3億年前からの泥岩、砂岩の
研究をされてこの地質構造の究明をされています。
 この研究成果を紹介することにより、私自身の幼き頃からの疑問も解けるような気がしています。

 結論から、申しますと四国は地質年代が古い地層が北にあり新しい地層は南にあり、
地球のプレ−トの動き、南海トラフの探査結果等の事実より次々と地層が付加されて現在の形になつた。

 この驚くべき結論は、シルル紀の化石、デボン紀の鱗木の化石などが高知県に存在する事実の
合理的説明もつきます。 シルル紀のサンゴ、ウミユリ、三葉虫の化石はオ−ストラリア、南中国に
産するものと種類が似ているという事実は元は同じ場所にあったのが分離した。 
つまりは大陸の移動現象です。
 石炭紀の石灰岩中に見られる有孔虫の一種であるフズリナという化石は、カナダ、アメリカの石灰岩
から発見されるものとほとんど同じとの事実。 これなんかも現在の海洋環境から推定すれば、浅海の
造礁サンゴが生育する赤道付近しか考えられない。南米のチリにも同様な化石が産出することも判明した。
 ドイツ人の地理学者ウエゲナ−の推定が正しかったことが判明されつつあります。 
大陸移動説をアフリカ、南アメリカの地形の類似性、地質分布、植物分布等より推定した。

このような地質学的な解明事実の前提条件となる基礎的な定理、法則について説明します。

1)地球は赤道上で直径12,742kmのほぼ球体であり、中心部はコアで周辺部はマントルと
 呼ばれる部分より構成されています。マントルは玄武岩質より構成されています。
  この玄武岩質のプレ−トが地球表面には何枚もありこれが移動している。
 具体的には、太平洋プレ−トとフィリッピン海プレ−トがそれぞれ年間10cm、4cmとユ−ラシア
 プレ−トに向かってゆっくりと沈みこんでいます。これを研究する学問をプレ−トテクトニクスという。
  この沈み込み対して地殻が反発するのが地震です。
 仮に赤道上より、北緯33度まで年間4cmで移動すると仮定して計算すると 9,167万年となる。
2)地球には、磁場が作用していて地磁気の三要素、全磁力、伏角、偏角がある。
 磁場は、堆積時の当時の環境を保存する性質があり当時の残留磁場測定で生成された緯度が
 推定されます。
3)海洋では、石灰質のプランクトンは水深が深くなるにつれて未飽和になる。
 炭酸カルシウム補償深度といわれ、南海トラフでは4,500mで石灰質の殻は溶けて珪酸質、
 粘土のみが沈降することが解明されている。チャ−トの生成に合理的根拠を与えます。
4)南海トラフには、陸上からの堆積物が乱泥流として、遠く中部日本の富士川河口から運ばれた
 と推定される。 これは、常識では考えられない大発見と思います。
 この推定の根拠は、南海トラフの海底掘削の資料の分析によりもたらされたが、砂岩中の鉱物が
 伊豆、箱根火山帯より供給されたものと一致したのです。
5)四万十帯の頁岩、砂岩の互層中にメランジュと呼ばれる特殊な産状が認められ、チャ−トと
 多色頁岩より構成されています。玄武岩が噴出して出来た枕状溶岩も同時に発見されている。
 このメランジュより見つかる放散虫化石は、泥岩、砂岩の互層の堆積時期より古い年代が
 判明している。 
6)東京大学海洋研究所とテキサス大学の南海トラフの調査結果が、平朝彦氏の著書で紹介されている
 が、その反射人口地震波の解析断面を見ると陸側に近くなるにつれて、圧縮応力が作用して、褶曲、
 断層、すべり面が明瞭に判読される。

以上のような前提条件を考慮しつつ、四万十帯の形成過程を、平朝彦教授は考察されています。

 地質構造から、北から1億2千万年前から1億年前の地層と白亜紀後半の1億年前から
6,500万年前の地層が並び、更に新生代の5,000万年前から4,000万年前の地層となります。
更に、中新世の3,000万年前から2,000万年前と分布しています。
 単に地殻隆起現象ならば、新しい地層が上位になければならないのに古い地層が北側にある事実
を合理的に説明する方法として、プレ−トの移動により堆積層が四国に衝突して次〃と付け加わった。
そのように説明することにより、地磁気の測定結果、メランジュの謎、多色頁岩の存在、枕状溶岩の
存在等が合理的に説明される。
 もう少し具体的に説明すれば、枕状溶岩は赤道付近の深海にて生成されてプレ−トの移動に
より北上して浅海性の石灰質のプランクトンのナンノ石灰岩を作った。
 更に北上を続けて、石灰質が未飽和状態になる深さになるとチャ−トを堆積させた。
陸上部の影響が及ぶ距離に達すると、赤色頁岩、火山灰を含む地層を形成して海溝に近づき
海溝堆積物を形成しつつ、赤道付近からの移動物質と混合したメランジュ等を付加して、プレ−ト部
は沈み込んでしまった。

早速、高知県芸西村住吉海岸の露頭の現場に行ってきました。上記の著書のp59写真参照
 

これは手結海岸の砂岩、泥岩互層(タ−ビダイト) 7000万前
 
手結海岸の砂岩、泥岩の互層  海岸の面に対して45度程度の傾きがある。
芸西村住吉海岸にて
    赤色チャ−ト(放散虫の化石を含み分析より1億3万年前から1億年前)         
メランジュと呼ばれる黒色の泥質岩  種〃の地層、岩石が混在している。
 
チャ−トと赤色頁岩 (9000万年前から8000万前) 土壌のような部分
    枕状溶岩でこの間に存在する石灰質プランクトンの分析より1億3千年前に堆積したとされ
    残留磁気の測定より、赤道付近で形成されたと思われるとのことです。
なんでもない、海岸にこのような悠久の時の流れがあり自然現象は複雑怪奇です。

詳しくは、平朝彦氏の執筆の『日本列島の誕生の謎』 岩波新書を読まれたし。